躯体工事の発注前に整理しておきたい条件と判断基準

この判断で本当に大丈夫かと不安になるのは当然です

「躯体工事って、どうやって発注するの?」

ゼネコンの発注業務を担う担当者であれば、一度は立ち止まったことがあるテーマではないでしょうか。図面はある。概算も出ている。さて、どうする。

  • 範囲は本当にこれで合っているのか
  • 仕上がりの認識は共有できているのか
  • あとで聞いていないと言われないか

発注の際に大切なのは、自分の判断を人や会社に説明できる状態にすることです。

しかしながら、実務の現場では、発注前に条件がすべて揃っている状態は、ほとんど存在しません。この記事では、躯体工事の発注を「業者選び」ではなく条件整理と判断設計の問題としてどう整理するかを解説します。

全部決めてから発注は理想論

「発注は条件がすべて揃ってからするべきだ」と言われることがあります。たしかに理想はそうです。しかし、実際はどうでしょうか。元請から躯体の会社へ相談をする時点で、すでに何かしらの課題を抱えているケースがほとんどです。たとえば、

  • 工期がタイト
  • 設計変更が続いている
  • 詳細が確定していない
  • 仕上がりレベルが抽象的

など。弊社でも、すべてが固まった状態でご相談いただくケースは、それほど多くありません。

ですから、発注とは全部決まってから進めることではなく、決まっていないことがある前提で進めるのが実態と言えます。重要なのは、どこがまだ未確定なのかを自分が把握できているかどうかです。

工事の発注

発注を価格比較の問題にすると失敗する

躯体工事の発注を、「どこが安いか」「実績が多いか」という比較軸だけで決めてしまうと、本質を見誤ります。トラブルの多くは、価格ではなく前提条件のズレから生じるからです。

とくに多いのが次の3点です。

  1. どこまでが躯体工事に含まれるのか
  2. どこからが別途工事なのか
  3. 仕上がりの期待値

たとえば、「補修はやる」という言葉ひとつでも、下地レベルで良いのか、仕上げ同等の見え方を求めるのかでは、意味がまったく違います。

たとえば「部屋を掃除しておいて」と言われたときに、床を掃くだけで終わらせるのと、棚の裏まで拭き上げるところまでやる。その違いがあるのと同じです。どちらも間違っていない。でも、前提が違えば揉めます。

工事の対象範囲

法的にも「範囲の明確化」は基本中の基本

日本の建設業法でも、工事内容の明確化は重要視されています。
《出典》建設業法の解説(国土交通省

契約前に工事内容や区分を整理することは、法制度上も基本とされています。海外でも同様です。AIA標準契約書でも、Scope of Work(業務範囲)の定義が最重要事項として扱われています。つまり、範囲の整理は日本特有の問題ではなく、世界共通の基本原則と言えます。
《出典》Standard Form of Construction Contract(American Institute of Architects)

認識の違いが起きやすいのは左官補修

実務で認識の差が出やすいのは、左官補修です。補修自体は躯体工事に含まれることが多いもの。しかし、どこまでの見え方を求めるかは、人によって認識が違います。最終仕上げ前提か、躯体完了レベルかによって、大きな差が出ます。

施工側が「補修はやります」と言ったとき、発注側は見た目も整うと思っているかもしれませんが、施工側は「構造上問題がないレベル」と捉えていることもあります。この認識のズレは、現場で最もエネルギーを消耗するポイントになりますので、事前に確認しておきたいところです。

どこまで任せるつもりかを言語化できているか

躯体業者に依頼する理由のひとつは、複数業者との調整を一本化できる、検査や段取りをある程度任せられるという点にあります。しかし、そのどこまで任せるかが共有されていないと問題になります。

たとえば、

  • 軽微な是正は含むのか
  • 第三者検査の調整は誰が主導するのか
  • 現場判断での変更対応はどこまで可能か

ここがあいまいなままだと、思っていたより手間が減らない不満が発注側に発生します。発注側の潜在ニーズとして多いのは、

  • できるだけコストを抑えたい
  • できるだけ自社の負担を減らしたい

というもの。しかし、楽になるはずという期待が施工側に伝わっていないとズレが生じます。発注とは、作業を丸投げすることではありません。役割の再設計です。

躯体工事の施工会社が受けられない条件は意外と少ない

現実には、躯体工事を引き受ける施工会社側に「これが決まっていないと絶対に受けられない」という条件は多くありません。決まっていなければ、

  • 別途工事として明示
  • 見積に注記
  • 打ち合わせで調整

という対応になります。重要なのは、決まっていないことを決まっていないと共通認識があるかどうかです。「わかってるよね?」「含まれてるよね?」という無意識の前提こそ、トラブルの種になります。

発注前に決める

進めて大丈夫と言える最低ライン

完璧に条件が揃っていなくても、次の3点が「説明できる状態」になっていれば、発注に向けて前に進みやすくなります。ポイントは、あいまいさをゼロにすることではなく、「あいまいな部分がどこで、どう扱うか」を言語化できていることです。

1. 現時点での工事の範囲区分がある

ここで言う範囲とは、確定した事項ではありません。最低限、次の3つがセットで整理されている状態を指します。

躯体工事に含む想定の範囲【例】配筋・型枠・コンクリート打設・基本的な躯体補修など
躯体工事に含まない想定範囲
(別途工事の扱い)
【例】仕上げ工事、設備、内装、躯体以外の付帯工事など
現時点では未確定の項目【例】取り合い(異なる工種が接する境界部分)・現場判断が発生する箇所・設計変更で動く可能性がある箇所

この範囲区分があるだけで、あとから揉めやすい「それはどっちの話?」が減ります。逆に、線引きがないまま進むと、現場での判断が全部その場の空気になり、責任分界の押し付け合いが起きやすくなります。

2.補修の仕上がりイメージがすり合わせできている

「補修あり」と書いてあっても、それだけでは具体的なイメージは人それぞれ。とくに左官補修の仕上がりのイメージは、人によって捉え方が違うからです。「構造上問題がなければOK」と考える人もいれば、「見た目もある程度整う」と思っている人もいます。

どちらが正しいというより、前提が違うまま進むことが問題になります。だからこそ、「どこまでを想定しているのか」を事前に言葉にしておくことが大切です。

躯体完了として求めるレベルはどこか構造上問題がないレベルなのか/見え方もある程度整える前提なのか
補修の優先順位は何か安全性・精度・納まり優先か/視認性・見栄えも重視するか
最終的な見え方は後工程仕上げ側で調整する前提かどうか

たとえば、「傷は埋めるけれど、完全にフラットに整えるわけではない」「見え方を整える場合は、どこまでを躯体で対応し、どこからを別途とする」など、言葉にして共有できていると、後からの行き違いが起こりにくくなります。

3.なぜこの会社に発注するのかを説明できる

大切なのは、発注の根拠を後から説明できることです。ここがあいまいだと、条件が変わったときに判断がぶれやすくなります。説明は立派な文章である必要はありません。

たとえば、次の3点を押さえていると、施工会社選びの検討・判断がしやすくなります。

なぜこの会社に依頼するのか【例】都内案件の実績、体制、調整力、コミュニケーションの相性、躯体の取り合い対応力など
今回の案件で何を期待しているか【例】工期の守り方、検査や調整の支援、リスクの拾い方など
どこまで任せ、どこから元請側で管理するか【例】軽微な是正は現場裁量か都度確認か、取り合い調整の主導、検査・工程調整の役割分担、追加発生時の承認フロー など

「安いから」「知り合いだから」だけだと、あとで困ります。何かあったときに、自分の判断を支えられないからです。「今回は未確定な部分が多いから、調整しながら進められる会社に依頼する」そういう捉え方でもかまいません。

自分がどう考えて決めたのかを言葉にしておくだけで、発注はぐっと安定します。

発注を急がないほうがいいとき

どれだけ整理したつもりでも、よく見ると前提が共有されていないまま進もうとしていることがあります。「大丈夫そう」に見えるけれど、足元がまだ不安定。そんなときは、発注を進める前に、一度立ち止まって確認しておきたいところです。

次のような場合は、いったん整理の時間を取ったほうが安全です。

  • 範囲が口頭ベースで、書面(見積・注記・議事メモ)に残っていない
  • 「別途」扱いの線引きがなく、未確定事項も列挙されていない
  • 補修や仕上がりの話が「常識でしょ」「いつも通りで」で流れている
  • 役割分担があいまいで、「どこまで任せるつもりか」が共有されていない
  • 判断根拠が感覚だけで、社内・施主に説明できる形になっていない
  • 「たぶん大丈夫」で進めようとしている(=あいまいさの所在を誰も把握していない)

この状態のまま発注すると、問題が起きたときに「誰が」「何を前提に」決めたのかが追えなくなります。立ち止まるのは、スピードを落とすためではありません。後戻りのコストを発生させないためです。

後戻りコストを発生させない

理想と現実のギャップを前提に設計する

理想は、発注前にすべてが整理されていることです。でも実際は、そうはいきません。躯体工事では、図面では見えないことや、現場で初めて分かることが必ず出てきます。打ち合わせを重ねながら詰めていくのが、実務としては自然な進み方です。

だからといって、「決まっていないから仕方ない」で流してしまうと、あとで困ります。

大切なのは、あいまいさをなくすことではなく、「どこがあいまいか」を可視化しておくことです。たとえば、こんなふうに。

  • 未確定事項は、未確定のまま列挙して共有しておく
  • 別途になる可能性があるものは、見積や注記で触れておく
  • 補修の仕上がりは、細かく決めなくても方向性だけ共有しておく
  • どこまで任せるのか言葉で確認しておく

すべてを固める必要はありません。わかっていない部分をわかってないと把握・共有して進むことが大切です。

まとめ|発注前に確認しておきたい3つの判断ポイント

躯体工事の発注は、価格だけでは決まりにくいもの。だからこそ、何が決まっていて何が決まっていないかを発注する側がしっかり認識できているかどうかがカギになります。

  1. どこまでが躯体工事なのかを、いまの時点で区分できているか
  2. 補修をどのレベルまで整える想定か、話ができているか
  3. どこまで任せるのか、なぜその会社に依頼するのかを自分が社内で説明できるか

この3つが整理できていれば、すべてが固まっていなくても、発注はぐっと安定します。

逆に、ここがあいまいなまま進むと、「含まれていると思っていた」「そこまでやるとは聞いていない」といった話になりやすくなります。

発注前にできることは、難しいことではありません。まずは「まだ決まっていないことは何か」を書き出してみることです。あいまいさをなくすのではなく、あいまいなままでも把握できている状態にする。それだけで、発注はずっと進めやすくなります。

執筆・編集:川俣沙織(IT事業部マーケティング部門マネージャー)

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