見積書に「躯体工事一式」と書かれています。便利な言葉ですが、その中身がどこまで含まれているのかわかりにくいと感じる方も多いと思います。
複数社から躯体工事の見積書が出てきたとき、当然それぞれ金額と内訳が異なりますし、その内容が妥当かどうかは、すぐには判断しにくいものです。この記事では、躯体工事一式に一般的に含まれる工種と、発注前に確認しておきたいポイントを整理します。
躯体工事一式に含まれる基本工種
まず、構造体を成立させるために欠かせない中核部分があります。
- 鉄筋工事
- 型枠工事
- コンクリート工事
この3工種は、躯体工事の中核となる工事です。山上建設が主に手がけるRC造(鉄筋コンクリート造)マンションや中規模集合住宅(延床1,000〜2,000㎡程度)であっても、この部分が抜けることはありません。一式という言葉が指しているのは、この構造の核となる工事です。
山上建設が対応する躯体関連工種
たとえば山上建設では、これらの基本工種に加え、躯体に関わる関連工種まで一括で対応しています。具体的には、
- 杭工事
- 山留工事
- 土工事
- 鉄筋工事
- 型枠工事
- コンクリート工事
- 左官工事(躯体補修)
を対応可能としています。躯体工事にかかる工程を一括で引き受けられるよう体制を整えているため、工種ごとに業者が分かれることで起こりやすい工程間の調整、打合せ、各種手配の手間等管理コストを、できるだけ減らすようにしています。

ここで重要なのは「対応可能=自動的にすべて含まれる」という意味ではないという点です。見積にどこまで含めるかは、案件の条件や発注範囲によって変わります。そのため、対応可能な工種を明確にしつつ、実際に含まれる範囲を事前に共有することを重視しています。
会社や案件によって差が出る部分
「躯体工事一式」と書かれていても、運用の幅が出やすい部分はあります。
そもそも躯体補修とは
躯体補修とは、コンクリート打設後に発生する目違い、不陸、コーン処理、打ち継ぎ部の調整など、構造体としての精度を確保するための修整作業を指します。仕様書上はコンクリート工事や型枠工事の範囲に含まれる内容もありますが、実務では左官工事として処理されるケースもあり、その区分が曖昧になることがあります。
この区分が整理されていない場合、精算時に費用負担の認識が分かれる原因になります。とくに、左官工事との境界は判断が分かれやすい部分です。
判断が分かれやすい左官補修
コンクリート打設後には補修作業が発生します。ただし、この補修がどの工種に含まれるのかは、仕様書上も整理と確認が必要な部分です。公共建築工事標準仕様書では、打ち放し仕上げはA種・B種・C種に区分され、コーン処理や目違い払いなどはコンクリート工事・型枠工事の範囲とされています。
一方、仕上塗材の下地調整や全面薄塗り補修は左官工事として扱われ、塗り厚によって歩掛や積算が変わります。しかし設計図書に厚みが明示されないケースも多く、実務では躯体修整費用が精算時の論点になることがあります。
このように、補修は単なる見た目の問題ではなく、工種区分や積算区分に関わるテーマです。そのため、「どの補修を誰がどの範囲まで行う前提なのか」を発注前に確認しておくことが重要になります。補修の扱いを明確にしておくだけで、見積内容の比較や発注判断は格段にしやすくなります。
安全対策費の扱い
安全対策も、事前に確認しておきたいポイントのひとつです。
足場養生や第三者災害対策など、どこまで必要になるかは現場条件及び会社毎の安全基準によって変わります。法令上最低限の安全対策は必ず実施しますが、それ以上をどこまで行うかは案件や条件ごとに異なります。
| ケース | 安全対策の例 |
| 交通量の多い幹線道路に面している敷地の場合 | 歩行者や車両への飛散防止対策を強化する必要があります。防護棚や二重養生、誘導員の常時配置が必要になることもあります |
| 近隣との距離が近い住宅街の場合 | 防音シートの強化や作業時間の制限対応が求められることがあります |
| 隣地との離隔が極端に狭い場合 | 仮設計画そのものを変更する必要が生じることもあります |
同じ延床規模の建物であっても、こうした条件の違いにより、安全対策費が数十万円単位で変わることもあります。場合によっては100万円単位で影響が出るケースもあります。
予算に一定の余裕がある案件ほど、途中の調整がスムーズに進みやすい傾向があります。安全対策をどのレベルまで見込んでいるかを確認することは、結果的にリスク管理につながります。
「それは別工事です」と言われるとき
「躯体工事一式」という言葉は発注側からすると、「躯体に関わることは全部まとめてお願いできる」というイメージを持ちやすい言葉でもあります。しかし実務では、「一式=すべて」という意味ではないことを認識する必要があります。
一式の解釈が分かれる理由
躯体工事一式には、鉄筋・型枠・コンクリート工事など、必ず含まれる中核工種があります。それ以外の工種や対応については、どのレベルまでを想定するかが会社ごとに考え方や対応範囲が異なります。この点が共有されていないと、工事が進んだ状態で「それは別工事です」と言われることも。実務でよくあるのは、次のようなケースです。
発注側は、
- 左官補修はクロス下地や塗装下地等の仕上左官まで行うものだと思っていた
- 安全対策も社内基準に合わせて全て対応してくれる前提だと考えていた
- 仮設の一部も躯体に含まれると思っていた
受注側は、
- 補修は最低限の範囲を想定していた
- 安全対策は基本レベルのみを見込んでいた
- 一部の仮設は別途工事と考えていた
このように、一式で想定している対応範囲は、前提条件を事前にしっかり確認しないと、認識の違いが発生しやすいもの。そこがあいまいなまま工事が進むと、「それは別工事です」という言葉が出てきます。ここで大切なのは、追加費用が発生すること自体ではありません。どこまでを含む前提で契約しているか、双方で一致しているかどうかです。
たとえば、カレーライスを頼んだときに「福神漬けが付いていない」のと、「カツが乗っていない」のは、意味が違います。福神漬けであれば、付け忘れやサービスの範囲で調整しやすいですが、カツは、そもそも別注文です。
契約前に確認すべきポイント
躯体工事も同じです。最低限の範囲の中での調整なのか、そもそも別の工種なのか。その線引きが共有されていなければ、「別工事」という言葉は必ず出てきます。
躯体工事一式でも同様に
- 双方が当然含まれると認識している範囲なのか
- 発注側のみが含まれると考えている範囲なのか
この認識の違いが「別工事」という言葉につながります。どちらかが悪いという話ではありません。前提の共有が足りなかったということです。

発注前にすべてを確定できるか
実務では、発注前にすべてを完全に確定させることは容易ではありません。打ち合わせを重ねながら調整していきます。事前に確認しておきたいポイントは次の3つです。
発注前に確認しておきたい3つのこと
山上建設では、依頼前に次の3点を確認することをお願いしています。
- 一式の中身はどこまで含まれるか
- 含まれないものは何か
- 工事が進む中で調整が必要になる可能性がある部分はどこか
とくに大切にしているのは、「どこまでが前提として確定しているのか」「どこからが協議の対象になり得るのか」をあらかじめ共有しておくことです。
躯体工事は、着工前にすべてを完全確定できるものではありません。現場条件や求める仕上がりのレベルによって、途中で判断が必要になる場面もあります。そのときに重要なのは、追加が出るかどうかではなく、あらかじめ想定していた範囲なのかどうかが共有されていることです。
山上建設では、見積書に「一式」と記載する場合でも、可能な限り前提条件を明示するようにしています。たとえば、
- 補修はどのレベルまでを想定しているか
- 安全対策費はどの条件を前提としているか
- 条件変更があった場合、どのように進めるのか
といった点を、着工前の段階で共有します。すべてを事前に固定することは難しくても、「ここまでは含まれる」「ここからは相談になる」という整理をしておくことで、工事は落ち着いて進めやすくなります。
躯体工事一式を判断するための視点
躯体工事一式という言葉は便利ですが、その中身は案件ごとに前提が異なります。鉄筋・型枠・コンクリートという中核工種に加え、補修の範囲、安全対策の前提、調整が生じる可能性のある部分。どこまでが含まれ、どこからが協議になるのか。その整理ができているかどうかが、判断の質に影響します。
一式という言葉をそのまま受け取るのではなく、「何が含まれているのか」「何が前提になっているのか」と一段踏み込んで確認すること。その視点を持つだけで、発注時の確認は格段にしやすくなります。躯体工事一式を検討する際には、ぜひ一度、前提の整理という観点から見直してみてください。
執筆・編集:川俣沙織(IT事業部マーケティング部門マネージャー)